本来、[デザイン]は単なるスタイリングやアートとは異なるものであり、また流行を追うことでもないはずですが、「デザインは良いけど、使い勝手が良くない…」とか、「かっこいいデザインで作ってくれ…」という会話をよく耳にします。
残念なことに日本における[デザイン]の一般的認知は、たいへん低いといわざるを得ません。
バブル期の企業において、その[デザイン]は本来の使命を忘れ、シェアー争いや販売競争に利用され、効率だけを偏って優先させたり、格好だけの自己満足に浸ったり、儲けんがためのブランド主義に利用したりと、[デザイン]を愚弄しているとさえ思えるところがありました。
またデザインに関わる[デザイナー]のスキルやモラルも、何か上っ滑りなところがあり、中身のないカッコだけを追求した「偽デザイン」によって、使い捨ての空間や「もの」をあふれさせ、結果的に世の中にそのような認知をさせた責任があります。
また使う側においても、良いものを長く使いこなすという発想より、何でも新しく目をひくものに気をとられ、安物を次々と買い替えては捨てるといった使い捨ての風潮があったことも事実でしょう。
そしてただ同然で提供される[デザイン]サービスに対して、本来のクオリティを求めるには無理があると知りながら、自分自身のニーズ(必要としているもの)をまとめることができなくて、つい利用して頼ってしまう。
このような社会全体の流れが、[デザイン]の役割と重要性を見えなくして、間違った認知を広めてきたと言えるでしょう。
しかし、一方でデザインの重要性を評価して実践している企業やデザイナーは確かにいて、そのデザイン活動は地道ですが、時代が変化しても健全に世の中に受け入れられ続けています。
そこから生まれる[良いもの]は、人々の心や生活を豊かにして、社会環境との調和を図り、誰にとってもやさしく気配りがなされているものです。
私たちの携わっている[オフィスデザイン]の役割も、人口の大半を占めるにいたったオフィスワーカーがその生活の大半を過ごすオフィスにおいて、人々の心を豊かにして健全な知的生活ができる[場]を提供することなのです。
多くの人たちが、何か間違っていると気付きはじめた現代の効率優先・営利優先の社会にあって、[オフィスデザイン]は、人間中心の社会と企業活動を呼び戻すための重要な役割を持っており、もっと力を発揮しなければならないと信じています。
Kepla Design Studio 大倉清教
大倉清教 有限会社ケプラデザインスタジオ(Kepla Design Studio)代表取締役社長 これまでに約2,000件のオフィスプランニング、デザインを手掛ける。 著書に「オフィスインテリアのプランニング&デザイン」(共著・KBI出版)「3Dオフィスデザイナー快適オフィスの作り方」(共著・アスキー)がある。 |