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大倉清教のオフィスデザインコラム「オフィスのプランは自分たちで創る!」

第12回 「あそび・ゆとり・こだわり」のデザイン

イメージ写真現代の私たちの身のまわりには使い捨てにされるために生まれたものであふれています。

一過性の市場に並べることが目的でうわべだけのスタイルやパッケージに刺激をもとめ、中味は価格競争力のためにコストダウンをはかり、使いやすさや耐久性、道具の持つ美しさなどまったく考えられていない商品のなんと多いことでしょう。

そのようなものはすぐに飽きられ、また新しいものに取って代わられるのです。
作り手側では商品のライフサイクルを短くすることで次々と新製品を生み出し大量に投入することで、市場をリードできると考えているのです。
ひいては自然破壊と貴重な天然資源の枯渇を招き、地球規模で危機に瀕しているのです。市場の制圧がそれほど重要なことなのでしょうか?

そうして、めまぐるしく変化する市場がさらなる激烈なビジネスを生みだし、まさしく忙しすぎる社会を作り上げているのです。
人々は新しいものが良いものだという喧伝にだまされて次々と新製品にとびつき、せわしない生活をさらに加速するための利便性と効率を求めて買い換えているのです。新しいものがそんなに必要なのでしょうか?

誰しもがゆったりとした時間を持つことができなくなった現代では、忙しいという文字が「心を亡くす」と書くように、ゆとりのない生活でまわりの人への思いやりを忘れ、地域の文化的活動や家族の団欒を持つことさえ難しくなって、過去から継承された大切なものが失われつつあります。これほど早く変化する必要がどこにあるのでしょうか?

私たちはもっと身のまわりの「環境」に気を配り、「もの」を大切にし、自分自身の「人生」を見つめ直す時間が必要です。
効率化や生産性を高めるためにコスト削減や時間との競争が、私たちの仕事や生活を無味乾燥としたものにしていることに気付かなければなりません。
そのことで犠牲になっているのは子どもたちであり、感性豊かな自然との関わりを持つこともなく、親友との信頼関係を育むこともなく、とり残された若者が社会との軋轢に苦しみ、自己を取りもどそうともがいているのではないでしょうか。


ビジネスの世界においては、画一的な大量生産、効率優先による無駄の排除、管理主義による個性喪失、行きすぎた効率化、安全性を無視した経費削減がはびこっています。
そのためにビジネスの拠点であるオフィスはとても惨めな状況になっています。もはや人々がその一生の何分の一かを過ごす生活空間としての価値を見いだせなくなっています。

従来よりビジネスの鉄則として「あいまいさ」をなくすために、生産部門ばかりでなく事務部門においてもさまざまな定量化を行ってきました。
ワーカーを管理するための能力査定、評価しやすい業務標準化、非情な競争原理を働かす組織化、これらが人間性を無視した就労環境をつくりだし、個々の個人の持つ夢や希望を刈り取ってきたことは否めません。これでは、人材の使い捨てと言っても過言ではありません。

イメージ写真有能な人材ほど自律し協調することを望みます。
彼らは信頼関係に基づくチームで、顧客の信用と期待を裏切らず、企業が果たすべき社会に対する責任と役割を認識することに自分自身の生き甲斐を感じているのです。
それが果たせないと感じた瞬間に彼らは簡単に離れて行ってしまうのです。

納得のいく仕事を求める人材は、また仕事環境とワークスタイル(働き方)にも敏感です。 画一的な管理から脱却して豊かな創造性を発揮するには、[ゆとり]が不可欠で、夢や希望をかなえる魅力ある[あそび]も必要でしょう。オンリーワンの独自性を見つけるには「こだわり」を持つことが重要であると考えています。 そのような企業文化を持つところに自分たちの将来をかけてみたいと思い、その中で刺激を受けて自分なりの考え方を確立し、自己実現を目指そうとするのです。


これからの人材とその知恵を必要とする企業においては、優秀な人材にとって魅力的な環境を導入することを考えなければなりません。優秀な人材が集まり協業によって知恵を発揮する「場」づくりこそが経営資源となるのです。
従来の効率化の論理では忌避されたもの[ゆとり][あそび]「こだわり」は、ワーカーのワークスタイルを示すキーワードであるとともに、オフィスデザインのテーマでもあり、企業経営にとってもキーワードとなることでしょう。

いまや多様な価値観で人生を楽しみ、仕事においても自分本来の生き方を実践している豊かな才能が、大量生産時代の猛烈社員に取って代わりつつあります。そのような人材を育てる人間性豊かな環境づくりこそもっとも重要な経営戦略です。

人材は唯一無二ですから、これは一人一人の人材が独自の才能を発揮する「場」づくりに他なりません。このことが人間を大切にする企業文化を育み、顧客=人間を大切にする企業として発展することでしょう。
私たちはいい加減に人材をも使い捨てにすることから抜け出さなくてはならないのです。

Kepla Design Studio 大倉清教

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著者プロフィール

大倉清教
(おおくら きよのり)

有限会社ケプラデザインスタジオ(Kepla Design Studio)代表取締役社長

これまでに約2,000件のオフィスプランニング、デザインを手掛ける。
現在、FMコンサルティングやインテリアプランニング&デザイン、家具デザインなど幅広く活躍中。

著書に「オフィスインテリアのプランニング&デザイン」(共著・KBI出版)「3Dオフィスデザイナー快適オフィスの作り方」(共著・アスキー)がある。


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