日本の経済が高度成長期であったころ、子供たちは何でも与えられ、欲しいと思わなくてもものが与えられました。
幼児教育だけでなく様々なお稽古、ゲーム機。小学校に入れば学習塾。偏差値で割り振られた高校入試。大学の下宿生活は親の仕送り。推薦状をもらって就職活動そして、企業に就職して仕事を与えられる。
過保護にされ、自分で探して掴み取るということなしに何でも与えられ続けてきた世代です。
常に満腹感を感じているので、何を見ても感動も少なく、新たなものに対する挑戦や自分で創り上げようとする意欲や気力も必要なかったのでしょう。
さらに世の中は使い捨ての時代。不具合が生じても工夫することなしに新しいものを買い求める。マニュアル通りにすれば非難されることもないので、努力は何かダサイものとして映ってしまう。
子供たちばかりでなく、社会全体が「飽食の時代」を過ごしてきました。
しかしその裏では走り続けなければ遅れてしまうという脅迫感につきまとわれ、常に効率を求め、変化や挑戦がもてはやされてきました。
ところがここに来て、人々はその変化やスピードについて行けないことに気づきはじめ、その不適合が様々な問題を引き起こし、社会生活に影を落としています。
私たちは私たち自身のことをじっくり考え、生活を「工夫」することを忘れてはいないでしょうか?
まず生活の大半を占める仕事の中に「工夫」すること、すなわちより生き甲斐あるものとするために改良することからはじめてみませんか?
仕事は与えられるものではなく、自分自身で考え、作り出してはじめて意欲が湧くものです。
情報環境も協業のネットワークも自分で探して作り上げることができる時代になってきました。仕事をする空間は、楽しみとインスピレーションを感じられるよう工夫することができるはずです。
オフィスは与えられたスペースで与えられた仕事をこなす場では無くなっていることに気付くはずです。
「工夫」する余地はたくさんあります。
来社された人が楽しくなる受付。会話のネタが豊富にあるリフレッシュスペース。押し込めるのではなく取り出しやすい収納。適度な人口密度でにぎわいと活気を醸し出す執務スペース。通るだけでわくわくするような通路。
働きやすい環境を作るのに誰に遠慮する必要があるのでしょう?
仕事する意欲が高まり、気持ち良く働くことができるような運用やサービスが重要なファクターです。
「工夫」は与えられるものではなく、そこで日常的に生活する人々が自分たちで考え、作らなければなりません。
管理上の問題や運営する上での課題はたくさんあるかも知れません、しかし最も重要なのは意欲を持って働くことができることなのです。
そのためには使う人、オフィスワーカーが主役にならなければいけません。
そうでなければオフィスはただの箱。与えられた仕事をするだけの場に甘んじてはいけないのです。
ものを作り出すクリエイティブな仕事は、デザイナーやプランナーの特権ではありません。
自分の生活と仕事を自分で創り出し、「工夫」することによって誰もができることであり、いま最も必要とされていることなのです。
Kepla Design Studio 大倉清教
大倉清教 有限会社ケプラデザインスタジオ(Kepla Design Studio)代表取締役社長 これまでに約2,000件のオフィスプランニング、デザインを手掛ける。 著書に「オフィスインテリアのプランニング&デザイン」(共著・KBI出版)「3Dオフィスデザイナー快適オフィスの作り方」(共著・アスキー)がある。 |